コラム

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ヤフーに学ぶ、部下の成長を引き出す1on1の作法

リーダーシップ・マネジメントスキル

1on1とは?

あなたは1on1という言葉をご存じでしょうか。
よく知られているのはGoogleの事例ですが、最近は日本国内でも楽天やパナソニック、ヤフー、クックパッドといった企業が1on1を導入して成果を挙げております。その中で1on1を日本で最も活用している企業のひとつ、ヤフーの人事部門でトップを務める本間浩輔さんの著書『ヤフーの1on1 部下を成長させるコミュニケーションの技法』によると「1on1とは、わざわざ定期的に上司と部下との間で行う1対1の対話」であり、ヤフーでは全社員が原則週1回、30分程度、1on1に取り組んでいます。

Googleでアジアパシフィックのピープル・ディベロプメントとグローバルのラーニング・ストラテジーに携わった経験を持つピョートル・フェリークス・グジバチさんの著書『Google流 疲れない働き方』によると、Google在籍時は毎週1日、1人1時間ずつ時間を取って、チームメンバーと1対1のミーティング(1on1ミーティング)を実施していたそうです。
こう書くと、「そういう面談ならウチでもやっているよ」と感じた方がいらっしゃるかもしれませんが、ヤフーやGoogleで行っている1on1は、進捗報告や目標管理面談、人事評価フィードバックといったものとは全く違います。


なぜ1on1をやるのか?

ヤフーの本間さんは、1on1は部下のために行う面談であり、部下に十分話をしてもらうこと。そして1on1の成功の基準は、終わったときに、部下が「話してよかった」と思うかどうかだとしています。ヤフーにおける1on1の目的は「社員の経験学習を促進するため」です。経験学習とは経験から学ぶことに重きを置く方法で、職場での経験を学びに換えて、次の仕事に活かしていく考え方です。

ヤフーでは経験学習モデルを実践する機会として1on1を活用しています。経験学習モデルとは、アメリカの教育理論家 デービット・コルブが提唱した考え方で、経験から学ぶプロセスを ①経験→②観察→③概念化→④実践と定義したものです。

①経験したことを、掘り下げて(②観察)、教訓を引き出し(③概念化)、新しい試みに活かす(④実践)。このサイクルを1on1で何度も回して部下の学びを深めることを狙いとしています。
また、元Googleのピョートルさんは、話す内容は基本的にはチームメンバーに任せつつ、最低限確認する事項として「仕事の進捗」「今週、何をしたいと思っているか」「仕事が予定通り終わっていない場合は、その理由」を挙げています。


1on1のメリット

部下のために行う面談1on1を実施するメリットして、具体的には以下の3点が挙げられます。

①上司と部下がコミュニケーションをとるきっかけになる
1on1を仕組みとして確立したことで、上司が忙しそうで相談するのは気が引けると感じていた部下も、部下のことをもっとよく知りたいと思っていた上司も、1on1を理由に気兼ねなくコミュニケーションをとることができます。

②部下がタイムリーに相談することができる
目標管理や人事評価フィードバックのために設定される面談の場合、多くても四半期ごと(3か月に1度)、少ない場合は年1回しか機会がありませんが、1on1は週1回の頻度で開催されるので、相談したいと思ったとき、タイムリーに相談することができます。

③上司は思いがけない部下の情報を得ることができる
1on1を仕組みとして確立したことで、話のきっかけを得ようと相手に興味・関心を持って接することができるようになり、結果として1on1をやっていなければ知りえなかった、部下の思いがけない情報を得ることができます。情報を得たことで、部下が置かれている状況に応じた仕事の割り振りが行えるようになるなど、上司のマネジメントがうまくいく確率を上げることができます。


1on1の定着を阻む壁

①上司に多大な負荷がかかる
仮に毎週1回30分の1on1を7名の部下に実施するとなると、単純計算で30分×7名=210分。入れ替えの時間も含めると、上司は1週間のうち、半日以上を1on1に費やさなければならなくなります。
プレイングマネージャーとして、自ら実務をこなしながら週に半日、1on1の時間を捻出しなければならなくなると、今までのやり方では自分の仕事を期限までに終えることは非常に困難となってしまいます。

②結果が出るまで時間がかかる
1on1は1回や2回やっただけでは、目に見える成果を感じることは難しいです。
1on1が安心安全な場で、「何を話してもOKなんだ」と部下が理解して、上司との間に信頼関係が生まれ、今まで言えなかった相談や悩みを打ち明けてくれるようになるまでには、何度も回数を重ねる必要があります。週1回実施の場合、変化を実感できるまでにかかる期間の目安は3か月です。


1on1の進め方

ヤフーで行われている1on1の進め方のポイントをご紹介します。

①「今日は何の話をしましょうか」
ヤフーでは1on1を始めるときの決めゼリフがあります。
「今日は何の話をしましょうか」
この言葉を発するのは、1on1のテーマを上司ではなく部下に決めてもらうためです。
1on1の最初に上司が「今日は何の話をしましょうか」と聞くことを習慣化しておくと、部下は1on1に臨むとき、前もって話すテーマを探しておくようになります。1on1を自分のための時間だと部下に思ってもらうことができれば、1on1への取り組みが前向きになり、経験した仕事を学びに換えて、次の仕事に活かす経験学習モデルの成果が得やすくなります。

②部下に最後まで話をしてもらう
そのために必要なスキルがアクティブリスニングです。
アクティブリスニングは傾聴と訳されることが多いですが、ヤフーではアクティブリスニングとあえて英語(カタカナ)で表記します。ただ黙って相手の話を聞くのではなく、うなずいたり、相槌を打ったり、相手が発したキーワードを繰り返したりすることで、部下に最後まで話をしてもらえるようにサポートします。

③相手を認める
そのために必要なスキルがレコグニションです。
1on1でレコグニションと言えば、目の前にいる部下の存在を認め、部下のありのままを受け止め、それを相手がわかるように伝えることを指します。
カウンセリングで「無条件の肯定的な配慮」と呼ばれるものです。認めるとは共感することであり、賛成や同意、従う、言いなりになることとは違います。

④行動で終わる
1on1の最後は、テーマとして挙がった課題を解決するための行動を部下自身で導き出してもらいます。そのために「どうしていきましょうか?」といった感じで質問を投げかけて、部下に行動を宣言してもらいます。場合によっては、具体的な行動ができないかもしれないし、行動してもうまくいかないかもしれません。もしうまくいかなかったら、次回の1on1でなぜ行動できなかったか、なぜうまくいかなかったかを振り返って、理由を考え、次の行動につなげていく。この積み重ねが、考え、行動し、経験から学ぶ部下を育てることにつながります。


なぜヤフーで1on1が定着したのか

①トップを巻き込んだから
2012年4月、経営と業務執行の分離を明確にし、執行体制の大幅な若返りを図るために、体制変更を行いました。新体制のもと、変革が求められる環境下で機敏かつ大胆に対応するとともに、会社の成長を一層加速させるため、人事本部長の本間さんが1on1を導入しました。導入当初から、経営陣が、1on1導入研修に受講者として参加したり、業務時間の多くを1on1に割いたりしてもらうなど、1on1定着に向けてトップに率先して取り組んでもらうことができました。

②WHYを徹底的に伝えたから
具体的には
「なぜ1on1をするのか?」
「ヤフーが1on1をすることによってどう変わりたいのか?」
といった人事サイドの思いと要望を、社内広報担当者の協力を得ながらイントラネットでメッセージを発信したり、部門の会議で説明したり、社内のインフォーマルなネットワークを駆使して説明に行ったりするなど、考えられるルートを全て活用して「WHYを伝える」ことを徹底しました。

③1on1をやらざるを得ない仕組みを作ったから
部下に自分が受けた1on1を「内省効果」「気づき」「キャリア自律」「目標達成・評価」といった指標で点数化してもらい、それを上司にアセスメント結果として返す「1on1チェック」という仕組みを作り、1on1の実施状況を可視化しました。

1on1導入を検討している御社にとって、本記事が何か1つでもお役に立てたら嬉しいです。

参考書籍『ヤフーの1on1 部下を成長させるコミュニケーションの技法』(本間浩輔さん著)

 

コラム著者 丸の内ビジネスカレッジ パートナー講師 大谷更生
元大手通信会社のシステムエンジニアを経て、現在は問題整理の専門家として研修講師やコンサルティングを中心に活動。
著書「情報整理術」「3年後のあなたが後悔しないために今すぐやるべきこと」